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プロジェクトの総評

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四日市大学エネルギー環境教育研究会 会長 
四日市大学環境情報学部 教授

               新田義孝



'伊勢竹鶏物語'は、三重県北勢地域で3R'reduce, reuse, recycle'を具体的に事業化したいという想いから始まった。もともと、有機廃棄物が腐敗して悪臭を放つ'公害'対策として、地元の小企業が'アライ菌'を生産して活用していたことに始まる。魚肉加工工場からの廃液が不十分に処理されたまま工場排水と一緒に流出して、悪臭となっていたのを、'アライ菌'を散布することによってかなりの期間臭い成分が分解されて悪臭がなくなったという事例が四日市市の小規模工場などで展開されていた。
 他方、近年全国で繁茂している孟宗竹などの竹害に対処しようと、竹を微粉砕する装置を開発した方がおられ、それを家畜に食べさせたり、有機肥料にしようという試みがなされていた。これに、'アライ菌'を作用させると、家畜の糞尿をその上から垂らしても悪臭が大幅に減少し、殆ど臭わなくなることが解ってきた。そこで、豚と鶏を試しに飼育して、その畜舎の敷材に'アライ菌'で処理した竹粉末を用いたところ、臭いが殆どしない畜舎を運営できることが判明し、また、これを飼料に数%混ぜて食べさせると、鶏卵や豚肉の品質が向上しているらしいということも分かってきた。
 この話を、四日市大學エネルギー環境教育研究会で討論していたときに、さらに発展させて、リサイクル飼料を開発して、これに'アライ菌'処理した竹粉末を混合すれば、良質の畜産生産物が得られ、かつ3Rを実現できるのではないかという議論になった。地域で産業廃棄物処理をしている事業者からの提案であった。すなわち、産業廃棄物のなかでパン屑や野菜屑は立派な資源になるもので、用途がないという理由だけで'廃棄物'になっているものに着目し、これらを従来の配合飼料に代替させることができないかという発想であった。
問題は二つあった。一つは従来より使われている配合飼料の何%までをリサイクル飼料で代替可能か。二つは、'アライ菌'処理した竹粉を添加することにより、生産物の品質が向上して販売価格に反映できるか である。
一昨年、環境大臣賞を個人受賞した事務局長矢口氏の発案で、環境保全を目的に鶏を100羽飼って、実証してみようということになり、さらにはこのプロジェクトを環境省に提案しようということになった。そして、鶏飼育が平成21年6月から始まった。
3Rを事業化するには、知恵が要る。もともと不要である物質を利用して製品化するのであるから、リサイクルするプロセスでの'お金の節約'が不可欠である。これには、本来'廃棄物'となる筈の物質の'廃棄物処理費用'の一部を充当するという手段が考えられる。廃棄物処理を専門にする企業だけが担当できる部分である。もう一つは、鶏卵の品質が高いことの実証と、ユーザーによる評価である。卵を使う立場の旅館やケーキ屋さんなどの評価がこれにあたる。
こうして、鶏100羽の飼育と、それを支えるリサイクル飼料の生産と、卵の品質評価が始まった。鶏100羽のうち90羽にリサイクル飼料を従来の配合飼料に混合して与え、のこり10羽には配合飼料だけを与えた。リサイクル飼料の割合をどの程度まで高められるかが一つの勝負所でもある。最終的には配合飼料の割合を半減するところまで実証できた。リサイクル飼料の栄養成分をもっと詳しく配慮すれば、さらに配合飼料の割合を減らすことが可能であろう。
鶏卵の品質は米国で使われているハウユニットという手法を用いて定量的に評価したところ、伊勢竹鶏卵の高品質性を実証することができた。他方、日本料理の調理長の評価によると、目玉焼きと茶碗蒸しで特長が出た。卵のもつ勢いが目玉焼きに顕れ、通常なら枠をつくってその中に卵を割って入れて焼かないと白身が広がってしまう。伊勢竹鶏卵だと枠がなくても広がらない。また、茶碗蒸しの卵と出汁比率を従来では1対3.5であったのを1対5まで広げることが可能である。洋菓子のパテシエ氏は、伊勢竹鶏卵には臭いが殆ど無いので、ケーキ材料として理想的であるとの評価を与えた。
かくして、100羽の養鶏実証試験より、3R事業の可能性が高いことが判明し、これから地元で事業化へと発展させる段階を迎えることになった。
三重県には中小規模の養鶏場が少なくない。卵の価格競争で苦戦している。よって、少しでも経済的なリサイクル飼料を提供し、しかもその飼料を使うことによって、高品質の卵を従来より高価格で販売することができる可能性があるところが、本プロジェクトの'売り'である。